阿久津愼太郎という役者を忘れてあげない。
ちょっと変わってるせいで同世代の男の子達の輪に入っていけない人だった。
でも仲間たちといる時は、年相応に可愛い男の子な人だった。
K-POPや2次元、アイドルが好きで、ドル売りされてるのにキャラが特異な人だった。
コスプレや女装が趣味の人だった。
芸能人とはいえ、その範疇を越えていると思うくらい、自己顕示欲に忠実な人だった。
ダンスと歌が上手い人だった。
接触対応がいい人だった。
見る度に芝居が上手くなっていってた。
活躍の場を広げていた。
そしてその分、おかしくなっていった。
辛そうにする彼を見ていられなくなった。
だから少し離れた。
そしたら、事務所を、芸能界を辞めるということになっていた。
悲しかった。だけど、やっぱりなと思った。
その時彼が所属していた事務所内の俳優集団の役者が軒並み去っていっていた時期だったからというのもあるかもしれないが、彼が辞めることが不思議なことではないと思った。
それ以上に、辛い思いをこれ以上してほしくないと思ったのかもしれない。
こんなクセの強い一般人がいていいのかとも思ったが、それ以上に肩の荷をおろしてほしかった。
それ以降、もう彼のことを忘れてあげようと思った。
だから、たまたまTwitterでRTされていたのを見つけなければ、私は一生彼のことを調べたりすることはなかっただろう。
だけど、また出会ってしまった。
彼はもう芸能人ではなかったけど、相変わらず自己顕示欲に溢れているように見えた。
じゃあ何故彼は辞めたんだろう。
彼の芝居が好きだった。
彼の感性が好きだった。
彼の紡ぐ言葉が好きだった。
自己を表現したいなら、
目立ちたいなら、
何故役者を辞めたんだろう。
忘れてあげることが彼のためになると思っていた。
それはただのエゴだけども、それでも彼のことを思っていた。
だけど、どうやら違ったらしい。
忘れられたくないからTwitterをやっているわけではないとは思う。
だけどなんか、こう、モヤモヤしてしまう。
結局これもまた私のエゴなんだけども、それくらい彼のことが好きだったし、辞めたことを憎んでいた。辞めてよかったと思っていたけど、芝居が見られなくなること、彼の紡ぐ言葉が聞けなくなること、感性に触れることが出来なくなることが私にとっての大きな損失だったからこそ憎んでいた。
でもそれでいい、彼のために。
そう思っていたのに。
だからこれは呪いだ。
彼のことを忘れない。忘れてあげない。
そうやって自己顕示欲を満たせばいい。
絶対に忘れてあげない。